【8】−1 社会的側面
これらのデーターは被災3ケ月後に当院へもどって透析を受けている121名に対して、看護婦が直接聞きとり調査をした結果
である。
図1 震災時居住地(転出者、入院者を除く)
図2-1 住宅の構造
図2-2 住宅の種類
図2-3 住宅の規模
図3の<住宅の被災状況>では全壊15.7%、半壊22.3%となっているが、今回の震災後、他地域に移住した、この統計に入っていない約20名は、そのほとんどが全壊の被災者で、これらを加えると全壊、半壊は5割近くに達している。
図3 住宅の被災状況
被災後約6割の者は一時的に自宅を離れているが(図4−1)、3ケ月後には約8割が自宅に帰っている(図4−2)。半壊被災者の大部分が自宅で居住しているという実態である。家族の安否では全員無事が9割であったが家族にケガ人や死者を出した患者もいる。(図−5)西宮は神戸に比し、火事が少なかったことが幸いしている。この統計には入っていないが、たまたまセンター病院に入院していた為、自分は難をのがれたが、家族は倒壊により圧死した方もいた。
図4-1 震災後の居住(複数回答)
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図4-2 3ケ月後の住居 図5 家族の安否
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図5 家族の安否
震災後初めて透析を受けたのは、120名中、被災当日(17日、厳密には18日未明を含む)44名、18日68名、19日7名、20日1名であった。(図−6)いずれも透析予定日かその翌日に透析を受けることができている。1月20日初めて透析を受けた者は、週2回透析で、前回は16日(月)に受けていた。被災後初めての透析を当院で受けた者77名(64.2%)他院で受けた者43名(35.8%)であったが、次回の透析から大阪や他地域へ移動してもらった患者が大勢いる。水の確保に自信がなかった事、患者の居住条件、通
院条件が著しく悪かった事より疎開を勧めたのが実状である。
図6 震災後初めて透析を受けたのはいつ?
患者と当院との連絡は、直接来院した者49名(40.5%)患者が当院へ電話した者48名(39.7%)、当院から患者へ連絡した者18名(15%)で(図−7)、95%以上の者が当院の指示により、被災後初めての透析を受けることができている。
図7 クリニックとの連絡方法
通院所要時間は、震災前では30分以内が93名(76.9%)で、全員2時間以内の通
院であったのが、被災直後は30分以内29名(24%)と激減し、2時間以上が42名(34.7%)もいて、被災直後の通
院困難性を物語っている。(図8−2)
図8-1 通院の交通手段(複数回答可)
図8-2 通院所要時間
これを透析を当院で受けた者と、他院で受けた者に分けて比較したのが(図8−3)である。当院への通
院が2時間以上かかっている18名は、主に芦屋、神戸、宝塚方面の患者で、当時は自宅にいる以上は大阪にいくより当院の方が近く止むをえない状況であった。
図8-3 震災後初の透析時の通院所要時間比較
震災3ケ月後の通院状況は、著しく改善されているが20.7%の者は以前より通
院時間が長くなったままである。(図−9)
図9-1 震災後3ケ月の通院状況
図9-2 通院状況が従来に戻っていないと答えた理由(複数回答)
ライフラインの復旧は(図−10)のごとくである。
図10 ライフラインの復旧状況
被災1ケ月までの当院での透析患者数の変化は(図−11)のごとくである。
図11 透析者数の推移
【8】−2 医学的側面
これらのデータは被災3ケ月後、当院で透析を受けている121名中、1週後、1ケ月後、3ケ月後の検査値が把握できた98名について検討したものである。
S−K値は1週後、3ケ月後では、震災直前値に比し、有意に低下している。(図−1)この間検査センターの検体の集配が1日2回から交通
事情悪化の為1日1回に減少している。採血から検査までの時間が長く、一部の患者の血液は溶血の為と思われる高値を示していたが、全体としてみると低下しており、意外であった。検査センター測定のS−K値6.0mEq/l以上の患者29名について、翌週、検査センターヘ提出する同一検体を院内測定器でただちに測り、検査センターの報告値と比較したのが(図−7)である。明らかに外注した報告値の方が高くなっている。
S−Ca、P値に有意の変動はなかった。(図1.2)
BUNは1週後と3ケ月後で有意の低下を示し、特に1週後の低下は著しく、蛋白質の摂取低下による結果
と考えられた。(図−2)s−Cr値は、1週後に上昇しており、これは被災直後、通
常より運動量が増えたことによると推測された。1ケ月後には逆に低下しており、これは、やせによる筋肉量
の減少によると推測するのはこじつけであろうか。(図−3)
Htの変動は認めなかった。(図−3)これは2週に1回、検血一般を測定し、その都度EPO製剤を調節している為と考えられ、実際、1ケ月後にはEPO製剤は約10%の有意の増量
となっている。(図−6)TP値は1週後、1ケ月後共有意の上昇を示しているが原因は不明である。(図−4)T−Cho値は2ケ月後に有意の低下を示している。(図−4)患者の体重減少は明らかに認められ、Dryweightは1ケ月後、3ケ月後共低下しているにもかかわらず(図−5)、心胸比は逆に増加しており、(図−6)実際のDry
weightはもっと低いと考えられた。 1週間の体重増加量は1ケ月後に有意の増加を認めている。(図−5)これは上水道再開による安心感から来たものだろうか。
全体としてみると食料事情、生活環境の悪化がデーターに色濃く反映されており、これらを背景として免疫力が低下し感染症の重症化、あるいは循環器系疾患の悪化を招来したと考えられる。当院での震災後3ケ月間に入院した者の内、PTXやシャント再形成等の予定入院を除き緊急入院を要した者が6名(廷べ7回)いた。内訳は、肺化膿症、肺炎、気管支炎、大腿骨部嫌気性菌感染、うっ血性心不全、不安定狭心症、重篤な不整脈各1名であった。ちなみに昨年の1〜4月の入院者数は2名で、内訳は心筋症による心不全、心筋梗塞であった。
(1)各測定値の平均値及び標準偏差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7 S-K値の比較
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